
「好き」を「資産」に変える3つのルール
前回のコラムでは、アートを「減価償却」できる資産として捉え、ビジネスの視点で「無名に多量」に購入する合理性をお伝えした。
「理屈はわかった。でも、そもそも何を買えばいいのか? 自分には目利き力がない」
そう不安に思う方も多いだろう。しかし、安心してほしい。
実はアートの世界において、いわゆる「センス」や「直感」だけで勝てるのは、ごく一部の天才だけだ。
むしろビジネスパーソンが得意とする「論理的な分析」と「ルールの運用」こそが、健全なコレクションを作るための最強の武器になる。
今回は、初心者コレクターが「好き」を「資産」に変えるための3つのルールを、投資家的な視点から紐解いていこう。
ルール①:自分の「センス」を過信しない
まず残酷な事実を伝えなければならない。
ファッションやインテリアのセンスが抜群に良い人が選んだ作品であっても、数年後にその価値がゼロになることは珍しくない。
なぜか。アートの価値が決まる仕組みは、作家の才能という「純粋なもの」だけではないからだ。
作家が途中で制作を諦めてしまうかもしれない。あるいは、取り扱いギャラリーのプロモーションが下手で、思ったよりも販売ができず、市場から消えてしまうかもしれない。
作品の価値が上がるかどうかは、作家の才能とは別の次元にある「変数」によって大きく左右される。
「どの作家が化けるか」の「あたり」を付けるには、本来、世界中の作品展示を大量に見まくる膨大な時間が必要だ。
それは本業を持つビジネスパーソンには現実的ではない。
だからこそ、自分の直感という「一点賭け」で勝負するのは、ギャラリーで全財産をルーレットに投じるようなものなのである。
ルール②:20〜30点の「ポートフォリオ」で確率を支配する
前回のコラムで紹介したロックフェラーの「無名に多量」という戦略。これは大企業でなくとも、中小企業の経営者や個人コレクターの規模に合わせて応用が可能だ。
具体的には、「20点から30点のコレクション」という単位で考えてみてほしい。
最初から「一世一代の1点」を選ぼうとすると、その作家が辞めてしまった瞬間に投資は失敗に終わる。
しかし、20〜30点の異なる作家の作品を少しずつ持っていればどうだろうか。
その中の一人や二人でも、将来的に世界的なアートフェアで注目されたり、美術館に収蔵されたりする作家が現れれば、コレクション全体の価値は買い値を遥かに上回る。
「外れてもいい。次がある」という余裕を持つことが、結果として冷静な判断を可能にする。
この「確率論」への投資こそが、目利き不要の投資術の第一歩だ。
ルール③:ギャラリーを「外部アドバイザー」として活用する
自分で何万点もの作品を見る時間が作れないのであれば、プロを頼るのが最も効率的だ。
購入先であるギャラリーは、単なるお店ではなく、あなたの投資を成功に導くパートナーである。
ただし、ギャラリーもビジネスである。時には「今、在庫として売れ残っている作品」を初心者に勧めてくる可能性も否定できない。
そこで、以下の「変数のチェック」を対話の中に組み込んでほしい。
・その作家は、アートフェア(特に海外の主要なもの)に出品されているか?
・作家ののコレクターへの販売実績はどのくらいあるか?
・ギャラリーがその作家の5年後、10年後のキャリアをどう描いているか?
こうした情報をギャラリーから引き出し、自分なりにルールの変数を変えていくのが正しいコレクションの仕方だ。
さらに、本当に価値が上がる可能性の高い「良い作家の、良い作品」は、ギャラリーが信頼しているコレクターに優先的に案内される。
定期的に足を運び、本気でコレクションを作っている姿勢を見せることで、彼らはあなたのための「優秀な外部アドバイザー」になってくれるだろう。
目利きは「買った後」に育つ
「勉強してから買おう」とする人は、いつまでも買えない。アートの審美眼とは、本を読んで身につけるものではなく、実際に身銭を切り、自分の壁に作品を掲げ、その価値が変動するのを肌で感じる中で育っていくものだからだ。
「好き」という気持ちは入り口として大切だ。しかし、それを「資産」として持続させるためには、ビジネスと同じようにマーケットの変数を読み、プロの情報を取り入れながらポートフォリオを組む強さが必要だ。
自分の直感よりも、状況に応じたルールの運用。 20〜30点という規模での分散投資。 そして、ギャラリーとの戦略的な信頼構築。
これらを実行できるビジネスパーソンは、すでに立派なコレクターの素質を持っている。
まずは無理のない範囲で、最初の一点を手にする勇気を持ってほしい。
その決断こそが、あなたの会社や人生に「文化資本」という名の新しい価値をもたらす出発点になるはずだ。
tagboatは、現代アーティスト・月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATAによる3人展「Layers」を開催いたします。
本展は、記憶や時間、物質や情報がどのように重なり、操作され、可視化されているのか——3名のそれぞれ異なる素材や表現方法によって、“層(レイヤー)”というテーマを多角的に提示します。
「Layers」
2026年1月29日(木) ~ 2月17日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の1月29日(木)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:1月29日(木)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
ARTIST
月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATA